2011/10/03

ラスカー賞にシャペロニンGroEL研究者

 20年以上、シャペロニンGroELの研究をしている。

 最初に始めたころはシャペロンの概念がまだ確立したころであり、分野はまだまだ黎明期。「シャペロン」というより、熱ショックタンパク質Hspと呼ぶことが多かったと記憶するが、シャペロンの研究なぞまだ海の物とも山の物ともつかなかった時代である。

 そんなシャペロン研究もノーベル賞候補者が出てくるようになってきた。一つには、数年前にインパクトファクターなどで知られるトムソン・ロイター社がシャペロンの概念の提案で知られるJohn EllisとシャペロニンGroEL研究で功績の大きいUlrich Hartl、Arthur Horwichの三人をノーベル賞候補として発表したのだ(→2007年の予想)。

 そして、今年。ラスカー基礎医学研究賞にHartlとHorwichが選ばれた。Lasker Foundationのトップページにはおなじみの写真が並んでいる。

ラスカー賞は「アメリカのノーベル賞」とも呼ばれ、実際、これまでに80人ものラスカー賞受賞者がノーベル賞を取っているそうだ。

 それはさておき、お二人の受賞理由は、
For discoveries concerning the cell's protein-folding machinery, exemplified by cage-like structures that convert newly made proteins into their biologically active forms.
ということである。

意訳すると、

細胞内でのタンパク質のフォールディングを助ける分子マシン、特に、新生タンパク質を活性のある構造に変換する「かご」状構造、の発見

というようなものである。「シャペロン」や「シャペロニン」という単語は出てこないが、この「かご」状構造がシャペロニンGroELのことである。ラスカー賞の受賞理由の記述にはGroELの構造や反応サイクルがきちんと載っている。

二人の功績は確かに大きい。あまりに詳しく知っているので(当たり前だが)、ここで書き出すといくら書いてもキリがない。

Cell誌にRothmanとSchekmanの二人の大物がこのラスカー賞について解説を書いている。
Molecular Mechanism of Protein Folding in the Cell

ぼく自身もGroELの研究に長く携わってきて、彼らの研究に感嘆することもあれば、ちがうんじゃないの、ということもある。実際ずいぶんと議論してきた。感慨もひとしおである。

個人的にもお二人にはとてもよくしてもらっていて、それぞれご自宅にまで招待されてたいへんな歓待も受けてきた。

Congratulations!


ただ、本当はもう一人入ってほしかった。George Lorimerだ。

特に、GroELがフォールディングを助ける分子マシンとしてはたらくことを最初に見出したのはLorimerである(Goloubinoff et all., Nature, 1989)。

個人的にはLorimerにもお世話になっており、ぼくにとっての「シャペロン」の一人だ。修士の頃にアメリカのLorimerラボに行かせてもらって、好熱菌GroELの実験を少し行ったのが、そのあともGroEL研究を続けるきっかけとなったのだ(そのときの実験自体は失敗に終わったが、その失敗理由を考えたことがぼくの初の論文、JBC1991、につながった)。
そのLorimerがなぜ選に漏れたのかもよくわかるだけにさみしいものがある。


さて、別の小ネタを。

90年代前半にラスカー賞の二人は実りのある共同研究もしてきた仲である。

・・・が、現在の二人のGroEL研究はうまくかみ合っているわけではない。相当激烈な論争のまっただ中である。
 この微妙な関係で受賞式のときとかどうなるのかな、と少しだけ気になるところだ。

↑このあたり、科研費「タンパク質の社会」のニュースレターにいくつか記事を書いた(6号コラム4号特集)に詳細に書いたので興味のある方はぜひ読んでみてほしいところである(コラムはそのまま読めますが、4号のpdfはパスワード制限あり。ただ、パスワードはメールをいただけたらすぐに教えます)。

 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

写真は今日の「7量体」

近所の公園での葉っぱだが、数えてもらうとGroELのマジックナンバー7ということで写真に撮っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2014年10月5日追記
その後、このエントリーが科学未来館の2014年ノーベル化学賞予想にて引用された(→こちら)。
さらに本ブログでの追加コメントもあり。→「科学未来館のノーベル賞予想は・・・(2014/10/3)」

0 コメント: